登山家がヒマラヤの頂上に登るのに、健康な体と訓練だけでなく、梯子やロープ、スパイクなどを必要とするように、ヨガを志す者にとっては、パタンジャリに説かれたラージャ・ヨーガという標高に到達するためにはスワートゥマーラーマ(ハタヨガ・プラディーピカーの著者)の説いたハタヨガの知識と鍛錬とが必要なのである。

『ヨーガ・スートラ』の中で、パタンジャリは喜びと苦しみを生み出すチッタ・ブルッティ(心の働き)を次の五つに分けている。

プラマーナ
標準あるいは理想。これに従い、次のことに基づき物事の価値を計る。
(1)感覚のような直接的形跡(プラティヤクシャ)
(2)推論(アヌマーナ)
(3)信用できると確かめられたときの権威者の表明および言葉

ウィパリヤヤ
学習によって得られた間違った見解。たとえば仮定あるいは間違った判断。

ウィカルパ
事実とは関係ない、言葉上の表現だけに基づく空想や想像。乞食が、億という金を使っている自分の姿を想像するだけで幸福と感じたり、金持ちの守銭奴が、自分は貧乏だと想像するだけで飢えを感じることがあり、これがその例である。

ニドラー
眠り。完全に眠っているとき、自分の名前、家族のこと、自分の地位、知識、知恵、そして自分の存在さえも思い出さない。
このように睡眠中自分自身を忘れることが出来ると、新鮮な気持ちで目覚めることができる。

スムルティ
記憶。体験したことの印象をしっかりつかんでおくこと。意識になくても、自分の過去の経験の中に生きている人がある。
彼らは悲しい、あるいは楽しい記憶にとらわれていて、その足かせを解くことができないでいる。

参考:ハタヨガの真髄